営業AIに「任せない」仕事を決める
——14のルールと判断を分けたVercelの例に学ぶ、架電の振り分け設計
営業AIに任せるべきなのは「判断」だけで、決まっている仕事は「ルール」としてコードに書くのが確実です。米Vercelはこの分け方でインバウンド対応を自動化し、年間の費用は推論とインフラ込みで約1,000ドルだと、同社COOのJeanne DeWitt Grosser氏が語っています。この記事では、その設計を整理したうえで、同じ考え方を営業リスト(どの番号に、どの順で電話をかけるか)に当てはめる手順を書きます。
Vercelは、何を自動化し、どこで設計を変えたのか
ベンチャー投資家のTomasz Tunguz氏が、Vercel COOとの対談を「How to Automate Inbound」(2026-10-06)にまとめています。以下は同記事から読み取れる事実です。なお対象はインバウンド(問い合わせ)への対応で、アウトバウンドではありません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 体制 | エンジニア1名が稼働の約20%を充てた |
| 最初のプロンプト | 約125行。トップSDRが、自社の見込み判定の基準を書いた |
| 1年後のプロンプト | 約1,000行。製品範囲の拡大とエンタープライズへの展開で増えた |
| 設計の変更 | プロンプトを「ルール」と「判断」に分け、ルールをコードに移した。現在は14の決定的なルールで動く |
| 品質確認 | 最初の100通は全件確認し、その後は100通に1通を抽出。約6週間で本番へ |
| 費用 | 推論とインフラで年間約1,000ドル |
出典:Tomasz Tunguz「How to Automate Inbound」(2026-10-06、Vercel COOとの対談)。同記事には、リード件数・転換率・応答時間の数値は記載がありません。
設計変更の理由を、Grosser氏は「モデルは長いプロンプトの中のルールを常に守るわけではない」と説明しています。記事中の例が1つだけ具体的で、リードが届くとSalesforceで「その企業に進行中の商談があるか」を調べ、あれば担当のAEへ回します。これは判断ではなく、調べて分岐するだけの処理です。ルールを守らせたいなら、モデルに「守れ」と書くのではなく、モデルに選ばせない作りにする。これが記事の核心です。
営業の仕事は、ルールと判断のどちらか
見分け方は「同じ入力なら、誰がやっても同じ答えになるか」です。同じ答えになるものはルール、状況を読んで人によって答えが割れるものは判断です。営業リストの運用に当てはめると、次のように分かれます。
| 仕事 | 種類 | 理由 |
|---|---|---|
| 進行中の商談がある企業を架電対象から外す | ルール | CRMを調べるだけで答えが決まる(Vercelの例と同型) |
| NG指定のある企業を除外する | ルール | 例外を作る余地がない。モデルに選ばせると事故になる |
| 代表電話の有無で、かける番号を決める | ルール | 番号欄に値があるかどうかで決まる |
| 相手企業の事業内容が自社商材に合うかの見立て | 判断 | 文脈を読む必要があり、人によって割れる |
| 初回メッセージの切り口の選択 | 判断 | 相手の状況に依存する |
表の上半分を、プロンプトに「〜してください」と書いて済ませていないでしょうか。長くなるほど守られない確率が上がるというのが、Vercelが1,000行まで育てて得た教訓です。営業AIエージェントを導入するときも、最初に決めるのはモデルの選定ではなく、この仕分けです。
具体例——「どの番号にかけるか」をルールに落とす
ルール化の効果が大きいのが、連絡経路の振り分けです。自社企業データベース(国内500万社以上を網羅。うちホームページ等で活動が確認できる企業を集計)の集計では、代表電話番号が取れるのは全体の約50%でした。一方、代表電話は取れないが、営業部の直通番号は取れる企業が約3万1千社あります。この層の扱いは部署直通の記事で解説しました。ここで問題にしたいのは、その番号を「誰が選ぶか」です。
代表電話が空欄の企業をAIに渡し、「連絡先を探して電話してください」と任せると、毎回違う経路を試し、結果の再現性がなくなります。次のように決めてしまえば、AIの出番は残りません。
- 代表電話があり、部署直通もある企業:目的の部署の直通を優先する(受付の取次を避けるため)
- 代表電話があり、部署直通がない企業:代表電話にかける
- 代表電話がなく、営業部の直通がある企業:営業部の直通にかける(約3万1千社が入る層)
- どちらもない企業:架電リストから外し、フォームやメールの経路に回す
この4行は、データに値が入っているかどうかだけで決まります。モデルを呼ぶ必要はなく、実行のたびに結果がぶれません。AIが担うのは、振り分けた後の「その企業に何を話すか」という判断だけです。
ルールにしたものを、どう確かめるか
Vercelの品質確認は、最初は全件、次に抜き取りという2段でした。同じ手順を営業リストに移すと、次のようになります。
- 最初の100社は、振り分け結果を全件目で確認する。「営業部の直通」と判定した番号が本当に部署の番号か、人が見て確かめます
- ぶれがなければ、100社に1社を抜き取る。データの更新後に振り分けが崩れていないかを見る目的です
- ルールを破った件数を数える。Vercelは「ルール違反を監視する第2のエージェント」を置いています。小さく始めるなら、違反の判定自体をコードで書き、件数だけをログに残せば足ります
ここで確認するのは、AIの出来ではなくルールの網羅性です。振り分けの4行から漏れる企業が出たら、それはルールの追加で直します。プロンプトを足して直そうとしないことが、1,000行を避ける一番の方法です。
やらないほうがよいこと
- ルールを全部プロンプトに書いて済ませない。行数が増えるほど、守られているかを確かめるのが難しくなります
- Vercelの数字を自社の見積りに使わない。年間約1,000ドルはインバウンドの1社の実績で、リード件数も転換率も公開されていません。同記事は、費用の目安であって成果の保証ではありません
- 判断まで全部ルールにしようとしない。事業内容との相性のように、文脈を読む仕事は人(または判断を任せたAI)に残します
まず今週やること
- いま営業AIや外注先に渡している指示を書き出し、1行ずつ「同じ入力なら誰がやっても同じ答えか」で仕分ける
- ルールの側に入った行は、リストの列とCRMの条件に置き換える(例:「進行中の商談あり」列、「代表電話」「部署直通」の列)
- 連絡経路の振り分けを上の4行で固定し、最初の100社を目で確認する
連絡経路の振り分けは、リストに代表電話と部署直通の両方の列が揃っていて初めて成立します。COMPASS AI のリストは、条件ごとに代表電話・部署直通の有無を集計して提供しているので、振り分けの対象が何社になるかを購入前に確認できます。同じ考え方の営業代行とAIエージェントの比較も参考になります。
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出典:Tomasz Tunguz「How to Automate Inbound」(2026-10-06)/自社企業データベース(国内500万社以上を網羅。うちホームページ等で活動が確認できる企業を集計。企業マスタ2026年5月時点・部署マスタ2026年3月時点)の集計による。調査会社の統計ではなく当社データベース上の実測値のため、日本の全法人に対する比率ではありません。